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仙台地方裁判所 昭和49年(モ)64号 判決 1974年7月20日

債権者 躍進する仙台市民連合

右代表者 勅使河原安夫

右訴訟代理人弁護士 菊地養之輔

<ほか一九名>

債務者 株式会社全貌社

右代表者代表取締役 水島毅

右訴訟代理人弁護士 関之

主文

当裁判所が右当事者間の当庁昭和四九年(ヨ)第一九号雑誌配布禁止等仮処分命令申請事件につき、昭和四九年一月一九日した仮処分決定はこれを認可する。

訴訟費用は債務者の負担とする。

事実

当事者双方の主張ならびに疎明関係は別紙記載のとおりである。

理由

一、≪疎明省略≫によれば、債権者は昭和四九年一月二七日施行の仙台市長選挙に際し島野武を候補者として擁立し、その当選を得させるため選挙活動を行うことを唯一の目的として、昭和四八年一一月一〇日に結成され、同月一五日仙台市選挙管理委員会から、公職選挙法二〇一条の九、一項但書の適用を受ける政治団体として確認を受けた団体であって、肩書住居に事務所を設け、代表者を定め、幹事会がその運営に当っているものであり、昭和四九年一月二〇日現在の構成員数は三五〇団体、三万五、〇〇〇人を数えることが一応認められるから、債権者は民事訴訟法四六条所定の訴訟上の当事者能力を有する団体に該当するものと認めるのが相当である。

右認定のとおり、債権者は仙台市長選挙において、島野武の当選を得させるため選挙活動を行うことを唯一の目的として存在する政治団体であるから、第三者の違法な干渉、妨害等によりその活動が不当に侵害されない利益を有するものであり、右の利益はその性質上、法律による保護を受けるに値する利益と看られるので、債権者は島野武の当選を妨げる目的でその選挙活動に対し違法な干渉、妨害をする者(自然人たると法人たるとを問わない)に対し法律上の手段に訴えてその救済を求め得るものというべきである。

したがって、この点に関する債務者の本案前の主張はいずれも理由がない。

二、≪疎明省略≫によれば、債務者は月刊雑誌「全貌」等の発行、販売を業とする株式会社であるが、昭和四八年一二月に雑誌「全貌」同年一二月号に「特集―五選に立つ島野仙台市長の身辺―汚職と論功人事と愛情問題のすべて」と題する記事を掲載し、これを通常の方法で販売配布したほか、仙台市の多数の有権者に対し、無償で郵送配布したこと、右記事の内容は、島野武仙台市長のそれまでの市政に対する非難攻撃のほか、特に「市長公舎に妻妾同居、島野市長いつわりの十数年……仙台市の市長公舎でもこんな小説もどきのみにくい関係が十数年余にわたってつづいたのである。だから『病床の妻への純愛』などという選挙用の泣かせ文句は真っ赤なウソだったのである。島野氏は病床の本妻をいつわり、市民をもいつわりつづけていたわけである」というものであって、島野武の私生活をことさらに暴露したものであったところ、その後、債務者は同雑誌昭和四九年二月号に「ふたたび島野仙台市長の身辺を問う―断固真実の報道にふみきる!」と題する記事(以下、本件記事という)を掲載し、これを仙台市長選挙が告示された翌日の昭和四九年一月一八日発売したこと、右記事の内容は、同雑誌昭和四八年一二月号掲載の記事の内容を要約して再掲するとともに、「本誌一二月号特集に対する地元有力者たちの証言」の見出しのもとに「……会友(旧制二高同窓会青葉会)の間で“妻妾同居”の話は知らぬ者はないほど有名だった」「“妻妾同居”の件なんか誰でも知っていることで……」「島野市長は女性問題ではとかく噂の多い人のようです。」「全貌一二月号は間違っているところはない。むしろ、控え目なくらいだ」という国会議員、市会議員(いずれも匿名)なるもの五名の談話を掲げ、また「有力資料が物語る“妻妾同居”の点と線」の見出しのもとに、島野武、島野とし(島野武の前夫人)、島野志津子(同現夫人)の「居住歴」なるものを引用し、右「居住歴」は戸籍謄本に基づいて作成されたものであってこれによれば、昭和三三年から、前夫人としが死亡する昭和四五年までの一二年間、前夫人としと現夫人志津子が市長公舎に同居したことが明らかで、右「居住歴」はまさに“妻妾同居”のカギを解く資料である旨の記事を掲載し、さらに「側近K氏が語る真相と姪と偽って公舎に同居するまで」の見出しのもとに「東京杉並区の家は島野さんの自宅だったが、昭和三〇年の選挙に破れて、次の選挙(昭和三三年)の資金のため手放した、と聞いている。東京文京区の家は借家だった。私の知る“妻妾同居”はその頃からだ」「(昭和三三年に)一か月くらいおくれて志津子さんも公舎に入ったようだ。公舎を訪れる人には(志津子を)長らく「姪」として紹介していた。前夫人のとしさんが死去した昭和四五年までの一二年間、公舎に“妻妾同居”の生活がつづいたのは、戸籍上からも証言者のいることによっても間違いのない事実だ。」という談話を掲載していることが一応認められるところ、右各記事の“妻妾同居”の事実の真実性についてはなんらの疎明がない。

右認定の雑誌「全貌」昭和四八年一二月号および同雑誌昭和四九年二月号に掲載された右記事の内容、右雑誌の配布時期、配布方法を考慮すると、債務者はことさらに島野武のスキャンダルをあばき出し、もって仙台市長選挙における同人の当選を妨げる目的で雑誌「全貌」昭和四九年二月号に本件記事を掲載し、これを配布したことが明らかであるから、債務者の右所為は、債権者の正当な選挙活動を違法に妨害するものとして不法行為を構成するものと認めるのが相当である。

しかして、法律により保護に値する利益が第三者の不法行為によって現に侵害され、もしくは侵害されようとしているときは、その侵害の対象が所有権、占有権人格権等明確な権利として構成することができない場合であっても、それが侵害行為の差止によって保護されるべき十分な利益を有すると認められるときは、これに基づいて侵害行為の差止を請求することができるものと解するのが相当である。

これを本件についてみるのに、公正な手段、方法に訴えて当落を争うべき選挙において、債務者の右のごとき不法な行為に因り有権者が誤った判断を抱くに至れば、島野武の市長当選を存続目的とする債権者の被る損害は甚大であって、これにより債権者が失う利益は、その性質上、これを金銭によって償うことのできないものであること明らかである。したがって債権者は債務者に対し、債務者の右不法行為によって右のような事態に陥いるのを予め妨止するため、雑誌「全貌」昭和四九年二月号の販売等配布の差止を請求する利益を有するものというべきである。

したがって、被保全権利の不存在及び差止請求権の要件欠缺を主張する債務者の主張はいずれも採用できない。

三、そして同雑誌昭和四九年二月号が投票日の九日前の選挙運動期間中に発売されたことを考えると、投票日までの間その販売等の差止をしなければ債権者は回復し難い損害を蒙ることも明らかであるから保全の必要性も認められる。債務者は本件仮処分によって出版の自由が侵害されるというけれども、不法行為を構成すること明々白白たる前示記事までも、憲法は表現の自由として、これを保障するものではなく、また債務者のいうように右雑誌の販売等の禁止地域を仙台市内に制限し、その対象者を仙台市の有権者に限定しただけでは本件仮処分の目的を十分に達することができないことは事柄の性質上明らかである。

よって、債権者の本件仮処分命令申請は理由があるから、本件仮処分決定を認可することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野進 裁判官 大塚一郎 堀田良一)

<以下省略>

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